AO-KUMA BRUT余すところあと3日となりましたが、展評を熊本日日新聞編集局デジタル編集部長、岩下勉さんに寄せていただきました。
最終日前日3月18日(土)には、斎藤龍樹(歌)+斎藤利幸(オカリナ演奏)
によるライブ「青森・熊本の歌とオカリナで聴くフォルクローレ」が午後2時から開かれます。
AO-KUMA BRUT終了の2日後、3月21日(水・祝)には、昨年Operation Tableで開催された「田中奈津子 隔離された絵画」も収録された「隔離された絵画 - Lukisan Yang Dikarantina」のカタログ発行を記念して、1日だけのイベント「「Kangen Indonesia nih !インドネシアが恋しい!」が催されます。
また3月最後の週末、3/24~26(金~日)の3日間には、料理家・文筆家の高山なおみさんをお迎えして、『帰ってきた日々ごはん⑬』アノニマ・スタジオ刊行記念イベントが開かれます。『帰ってきた日々ごはん⑬』には2020年にOperation Tableで開催され、高山なおみさんも参加していた『くちぶえサーカス』イベントの様子が記されており、座員だった画家の山福朱実が装画と挿絵を担当しています。
AO-KUMA BRUT
北と南のART BRUT交歓展
会期:2023.2.23(木・祝)ー3.19 (日)
金土日 11:00-18:00 2/23(祝)はオープン 月~木は前日までに予約
TEL;090-7384-8169 email; info@operation-table.com
北九州市文化芸術活動支援事業2022
協力;NPO法人ドアドアらうんど・青森
アール・ブリッュトパートナーズ熊本、障害者支援施設愛隣館(山鹿市)
ぽぽんたぜみなーる・遠藤たら子
毎年1回Operation Tableで開催する地域限定のArt Brut展の第4弾。今回は2019年熊本地震の時に、青森の美術作家、今恵美子さんが熊本の人々の痛恨を思い遣り「復興と鎮魂の祈り」を描きました、今展はそれをきっかけにした、青森と熊本の障害のある作家たち8名の作品を通じた交流展となります。青森の作家たちは熊本を題材に、熊本城やくまモンを描いてくださいました。また熊本の作家たちは青森のイメージから、ねぶたやホタテの絵、八甲田、恐山、走れメロスなど文字の作品も登場して、愉快な交歓展となりました。
出品作家
(青森 下図左から) 川津悠々、今恵美子、中嶋千晶、平野友愛
(熊本 下図左から) 内野貴信、駒田幸之介、曲梶智恵美、山品聡美
会期中イベント
2月23日(木・祝) 14:00~15:30 トーク「青森/熊本のアール・ブリュット」
近藤由紀(トウキョウアーツアンドスペース プログラムディレクター)×今恵美子(出品作家)×マタケマキコ(Operation Table)
参加費(ドリンク付)1,000円
今恵美子「復興と鎮魂の祈り」
2月26日(日) 14:00-16:00 ワークショップ「ビニールタイで作る草花・動物」
インストラクション;イブ参加費(材料費含み) 500円
イブさんは2021KitaQ BRUT出品作家、展覧会ではビニールタイでつくった怪獣や鳥や昆虫、アニメのキャラクターまでお披露目されました。このワークショップでは小さなお花や動物などをみなさんと一緒につくります。
3月11日(土) 14:00-16:00 ワークショップ「梱包材がカゴやアクセサリーに変身」
講師;坂口誓司
参加費(材料費含み) 500円
坂口さんは2021KitaQ BRUT出品作家、爪楊枝やマッチ棒で日本中の名城を作り上げます。ワークショップでは、梱包用の紐を編んでみなさんと一緒にカゴをつくるほか、坂口さんが小さなワンちゃんも作って見せてくださいます。
3月12日(日) 15:00~16:30 ライブ「青森/熊本の曲を織り交ぜて」
山福朱実(歌)+末森樹(ギター)
参加費(ドリンク付)2,000円
山福朱実+末森樹は北九州市若松区在住の画家+音楽家、Operation Tableでは歌と朗読+ギター演奏でおなじみのデュオです。今回は青森・熊本の曲ほか、本領のメキシコ民族歌やオリジナルの数々が聴けるでしょう。
3月18日(土) 14:00-15:30 ライブ「青森・熊本の歌とオカリナで聴くフォルクローレ」
斎藤龍樹(歌)+斎藤利幸(オカリナ演奏)
斎藤くんも2021KitaQ BRUT出品作家で利幸さんはお父様です。KitaQ BRUTの機会にお二人DUOのライブをやっていただきました。意外にも演歌が得意な斎藤くんの透き通るような声なら、演歌もまるでオペラのアリアのよう、お父様のオカリナも交じって澄み切った響きがしみわたります。
恐山が『恋山』に読める不思議 北九州で青森と熊本がつながり「じゃわめぐ」
岩下勉
熊本の山品聡美さんが書いた「恐山」の文字は、『恋山』とも読めて不思議だ。ボールペンなどでただ白い紙に書いた独特の角張った文字は、私たちが知る正解と微妙に違う”山品フォント”となる。恐と恋は確かに似ている。恐が名に付く霊場の近寄りがたさとは裏腹な、恋の乙女チックさが漂う文字のイメージに、会場で一人ニヤリとした。青森の川津悠々さんの風景画は、熊本城主の加藤清正の御前試合で、くまモンが相撲を取っている。テレビゲームと昔話が合わさったような描写、桜も満開、周囲で花見する人たちの弁当もうまそう、あっイノシシ、虚無僧が2人いる、清正公も相撲取りもみんないい笑顔…作品をじっくり見るほどニヤニヤ顔にさせられる。今回の北と南のART BRUT交歓会「AO-KUMA BRUT」は、青森と熊本から4人ずつ、アール・ブリュットなどと呼ばれる障害のある計8人の作家によるアート作品展で、青森は熊本を、熊本は青森をイメージした新作も披露された。2000キロ以上離れた青森と熊本が、北九州でつながるこの展覧会は、出品作家の一人、青森在住の今恵美子さんの思いやりがきっかけとなった。
熊本は2016年4月、国内で初めて最大震度7が2度立て続けに起こる熊本地震に見舞われた。発災から5カ月後、青森市からねぶた祭の参加団体有志が被災地・熊本を元気づけようと、9メートルもある巨大な山車を運んで来て、祭を披露してくれたことがあった。石垣や瓦がボロボロになった熊本城で、ねぶたが夜に浮かび上がり、ラッセーラーの掛け声が響き渡った。青森と熊本といえば、あの光景が真っ先に頭に浮かぶ。
今回の展覧会のきっかけも熊本で起きた別の地震だ。青森市の就労継続支援施設「ほ・だあちゃ」を創作の場とする今恵美子さんは2019年1月、熊本県北の和水町で震度6弱の地震発生のニュースをテレビで見た。「また熊本で」と衝撃を受け、「復興と鎮魂の祈り」(60×90センチ)をアクリル絵の具などで一気に2日で描き上げたという。古代の熊本の風景をイメージし、阿蘇山、卑弥呼のような女神、オオカミ、シカなど白い動物を配置し、思いを画面に詰め込んだ。「熊本に絵を届けたい」との願いは、青森と熊本のアール・ブリュット関係者と交流が深いインディペンデントキュレーター・マタケマキコさんの仲介によって、無事熊本に届けられた。そのつながりが、今回のOperation Tableでの展覧会につながっている。今さんは今回の展覧会来場が初めての九州訪問。会場でのトークイベントに出演し「あの時、私はスランプ状態だったけど、熊本の地震のニュースを知り、自分の悩みがぜいたくに思えた。熊本のためにできることは絵を描くことしかできない。元気づける要素をできるだけ詰め込んだ」と語った。
青森と熊本の8人の作家による展覧会は、Operation Tableが年1回開催する地域限定のアール・ブリュット展の第4弾として開催された。私自身初めての訪問だったが、会場は噂通り動物病院の手術室を彷彿とさせる水色の壁色が印象的だった。あの青緑の水色は、血液の赤の補色として、視力を守り手術のミスを防止する役割があると聞いたことがある。さらに手術台や無影灯などもある。「くせがすごい」と千鳥のノブ風につぶやきたくなる素敵な空間だが、その会場の個性にまったく負けない、いや逆に引き立つ、アール・ブリュット作家たちの作品の力強さに、あらためて感心させられた。
私の本業は新聞記者だが、取材が縁で2014年のアール・ブリュット・パートナーズ熊本(APBK)の発足から参加している。APBKでは、作家を中心に、福祉、教育、芸術、企業、行政等が草の根でつながりネットワークとなり、芸術でつながる地域共生社会を目指す「熊本モデル」を推進している。アール・ブリュットの芸術の感動や驚きを介して、障害のある作家たちと社会がつながる、障害の正しい理解と差別解消につながる、作家たちの創作意欲にもつながる…いろいろな「つながり」が生まれるはずだ。
展覧会で「じゃわめぐ」という青森弁を今さんに教えてもらった。青森ではねぶた祭が近づくと「じゃわめぐ」、血が騒ぐ、ぞくぞくする、そんな意味らしい。北九州で青森と熊本のアール・ブリュットがつながった今回だったが、全国でこうした展覧会が広がれば、もっと社会が変わるかもと可能性を感じさせてくれた。そう考えると、心が「じゃわめぐ」のだった。
(熊本日日新聞編集局デジタル編集部長、アール・ブリュット・パートナーズ熊本アドバイザー・学芸員)