3月15日まで開催していました「くちぶえサーカス」のことを、展覧会ゲストの高山なおみさんが、雑誌『暮しの手帖』に連載中のエッセイ「気ぬけごはん」にとりあげてくださいました。高山さんが会期中、サーカス一座団員の一人としてまかないイベント出演のため2度にわたってOperation Table/QMACに滞在されたときのものです。
『暮しの手帖 第5世紀6号』目次
「くちぶえサーカス」興行続行とイベントのご案内
2月16日で終了の予定でした「くちぶえサーカス」興行、好評につき会期を3月15日まで延長いたしました。
くちぶえサーカス一座の団員たち、絵師・中野真典、まかない料理家・高山なおみほか、旅芸人たちも、それぞれ別の地へと巡業にまわりました。いまは1月24日〜26日のイベント日に中野絵師により制作されたライブ・ペインティングが会場を飾り、3日間のできごとや団員たちの振舞い、訪れた人たちの姿を、福岡在住の映像作家、福田康紀さんが撮影・編集した記録映像が流されています。
そして3月1日と最終日の3月15日に、くちぶえサーカス一座のゲスト旅芸人たちによるイベントも開かれます。
すでにいらっしゃった方も、まだくちぶえサーカスに足を運んでなかった方も、どうぞ、3月15日まで、会場 Operation Tableへおいでください。
金土日祝オープン、月〜木は要予約(Tel; 090-7384-8169 e-mail; info@opertion-table.com)
〈イベントのご案内〉
2020年3月1日
サーカス映画の名場面と大道芸人の街パリからのシャンソン
映画解説:マタケット(くちぶえサーカス一座団長)
シャンソン:NORI(小倉在住シャンソン歌手)
ギター演奏:末森樹(くちぶえサーカス一座ギター弾き)
参加費:飲物付2,000円 / 終演後の宴+1,000円(飲物100-200円)
2020年3月15日(日) 開場16:30 開演17:00 中止になりました
ナマステ楽団
ディネーシュ チャンドラ ディヨンディ(Table)
末森英機(Gt.+Vo.)
牧瀬茜8Dance)
ゲスト:末森樹(Gt.)×山福朱実(Vo.)
参加費:ドリンク付 2500円 / 終演後の宴(Dineshさんのカレー付き) +1000円(飲物100-200円)
イベント両日とも要予約(Tel; 090-7384-8169 e-mail; info@opertion-table.com)
企画展のお知らせ
画家 絵本作家・中野真典の絵本『旅芸人の記録』から、原本と、さまざまな旅芸人たちを描いた作品を展示。
中野が在廊する日は絵本の表紙を直描きで仕上げてくれます!
2020年1月11日(土)~2月16日(日) ⇒3月15日(日)11:00~18:00
金土日オープン、月〜木は要予約
中野真典在廊日はオープン↓
1/11(土)、12(日)、13(月・祝)、23(木)、24(金)、25(土)、26(日)
Tel; 090-7384-8169 e-mail; info@opertion-table.com
北九州市文化振興基金奨励事業
大おんなは ぎゅううっと おちちをしぼりだしました。
ぽたり ぽたり
なにもない ひろい荒野に ぼたりぽたり したたりおち、
やがて テントが たちました。
画家 絵本作家・中野真典の自費出版絵本『旅芸人の記録』
(装丁:名久井直子/編集協力:月とコンパス/2018年 くちぶえ書房)刊/1000部限定)
《会期中イベント》
*搬入飾り付け SHOW !
1/11(土) 11:00~ 終日/ 入場無料 旅芸人がテントを設営するように中野が作品を展示していきます。
*旅芸人のライブペインティング “荒野にて”
1/24(金) 18:00〜 /DRINK付 ¥2,000(要予約)
出演:中野真典(Pt.)✕末森樹(Gt.)+山福朱実(Vo.)
*”くちぶえ一座”のまかないと音楽
料理家・高山なおみが”くちぶえ一座”のまかない料理を気ままに作ります。
末森樹(Gt.)×山福朱実(Vo.)も会場のあちこちで気ままに演奏♪
1/26(日) お昼頃から終日 受付完了後は何度でも会場に出入りできます。
参加¥1.500(19時以降+¥500、飲物1杯\100~200)
《くちぶえサーカス一座 団員紹介》
中野真典(なかの・まさのり)
1975年 兵庫県生まれ。画家・絵本作家。大阪芸術大学在学中、映画を観たり、学童保育で子どもと遊んだりして過ごす。ダンサーをはじめ、さまざまな表現者と寝食をともにした夏の日や、シベリア鉄道に乗ってチェコを目指した冬の日もある。絵本に「おもいで」(文・内田麟太郎・イースト・プレス)「はじめてのはじまり」(文・中川ひろたか・小学館)「おいぬさま」(原作・柳田国男、文・京極夏彦・汐文社)、自作に「りんごちゃん」「もういいかい」(BL出版)「おはなしトンネル」(イースト・プレス)、「かかしのしきしゃ」(理論社)「ほのちゃん」(WAVE出版)「ミツ」(佼成出版社) また、高山なおみとの共作に「どもるどだっく」(ブロンズ新社)など、多数。
2018年12月に自主レーベル"くちぶえ書房"を旗あげ「旅芸人の記録」を出版。
2019年9月、福岡市の書肆吾輩堂にて「ミツ 中野真典展ーみそらー」が開催され、会期中、福岡市美術館アートスタジオにてライブ・ペインティングが行われた。
http://www.nakanomasanori.com/index.html
高山なおみ(たかやま・なおみ)
1958年 静岡県生まれ。レストランのシェフを経て料理家に。におい、味わい、手ざわり、色、音……日々五感を開いて食材との対話を重ね、生み出されるシンプルで力強い料理は、作ること、食べることの楽しさを素直に思い出させてくれる。また、料理と同じく、からだの実感に裏打ちされた文章への評価も高い。著書に『日々ごはん』シリーズ、『帰ってから、お腹がすいてもいいようにと思ったのだ。』『料理=高山なおみ』、『実用の料理 ごはん』、『ロシア日記』、『ウズベキスタン日記』、『たべもの九十九』など多数。絵本は『アン ドゥ(絵・渡邊良重)』、画家・中野真典との共作『どもるどだっく』、『たべたあい』、『ほんとだもん』、『くんじくんのぞう』。新刊に『帰ってきた 日々ごはん⑥』、写真絵本『おにぎりをつくる(写真・長野陽一)』がある。神戸在住。 http://www.fukuu.com/
山福朱実(やまふく・あけみ)
1963年 北九州市若松区生まれ。1986年頃よりイラストレーターとして東京を中心に活動、2004年に木版画の制作に着手。一昨年、35年ぶりに若松へ戻り、アトリエ「樹の実工房」を実家である山福印刷の工場内に移設。
木版画による絵本は『ヤマネコ毛布』(復刊ドットコム)、『砂漠の町とサフラン酒』(架空社)、『ぐるうんぐるん』『菌の絵本 かび・きのこ』(農文協)など。物語の挿絵として『水はみどろの宮』(石牟礼道子 作・福音館書店)などがある。
装丁・挿画、個展やグループ展への参加などは多数。
ほかに、朗読や歌のライブ等をギタリスト・末森樹氏とのデュオで行っている。
HP 樹の実工房*山福朱実 http://nekoyanagioffice.wix.com/kinomikoubou
末森樹(すえもり・たつる)
1984年 東京都生まれ。15歳でアコースティックギターをはじめ、その後クラシックギターに転向。ソロ演奏のほかに歌の伴 奏、作曲も行う。飯田基晴監督作品『犬と猫と人間と』、宍戸大裕監督作品『犬と猫と人間と2』『風は生きよという』『道草』のドキュメンタリー映画音楽を担当。DVD『末森樹音源集 葡萄』(2018)がある。
真武真喜子(またけ・まきこ)
1951年 北九州市生まれ。くちぶえサーカス一座が定宿にする旅芸人宿の主人。元サーカス一座の団員で綱渡りの芸人だったが今は引退して、旅芸人の宿「手術台」をアーティスト・イン・レジデンス / オルタナティヴ・スペースとしても活用している。宿名「手術台(Operation Table)」は、サーカス団の動物たちを預かって診察していたという元動物病院に由来する。くちぶえサーカスの一座は飛び入芸人やその場限りの団員も歓迎❗️ということでくちぶえサーカス興行中のその他の催し物も計画中。
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図版キャプション:a.中野真典/おはなしトンネル/イースト・プレス/2013, b.さいごの雨/2014,
c. 旅芸人の記録/2018, d.天幕〜旅芸人の記録/2019, e.くちぶえ書房マーク
f.文・高山なおみ 絵・中野真典/どもるどだっく/ブロンズ新社/2016, g.たべたあい/2016/リトルモア/2016
h.高山なおみ/帰ってきた日々ごはん④/アノニマ・スタジオ/2018 i.山福朱実/いただく・山の神/木版画/ 2012,
j.ヤマネコ毛布/復刊ドットコム/2015 k.石牟礼道子・著 山福朱実・イラスト/水はみどろの宮/福音館文庫/2016
l.末森樹CD/風は生きよという 音源集/kinomi/2016, m.末森樹音源集 葡萄/裏山書房/2018
くちぶえサーカス一座のイベント、中野真典のライブペインティングと高山なおみのまかない料理、そして山福朱実+末森樹の歌とギター演奏、参加した来場者の皆さんの様子を、福岡在住の映像作家、福田康紀さんが撮影・編集した映像が完成しています。まる2日間のできごとを収めた長編でしたがその短縮版です。⇒短縮版映像
「在るもの」の記録
うらんたん文庫 坂元美由紀
朝、納屋造りのうらんたん文庫の明り窓から、始まりの陽が射し込むと、窓2枚を塞ぐ大きな絵の中の太陽から、金色に輝くさざ波が生まれる。真っ赤な太陽が海峡を隔てた荒野へロープを渡し、赤い民族衣装の女が綱渡り。空にはつばめが飛び交い、草むらには小さな白い花と大きな百合の花。山道を下るバス、海峡を往く舟。サーカス一座の或る日の記録…。 画家・絵本作家の中野真典さんが、2020年1月24日Operation Tableで行ったライブペインティング作品のひとつ。1月11日(土)から3月15日(日)に開催された中野真典作品展「くちぶえサーカス」会期終了後、作家のご厚意により、うらんたん文庫で展示させてもらっている。いつの日か「くちぶえ一座」がふらりとここを訪ねてくれることを期待しながら!!
『本当に僕が描いたのか?当時のことを憶えていない。ただ、感覚だけが残っている。暑かった。セミがジャブジャブ、耳の中でないている。痛かった。それ程に、没頭していたのか。ちょうど、絵が描けなくなっていた時期だった。でも、描いた。描いている最中、こえがした。「かきなさい、それでいい」』(註1)
中野真典さんの絵本との最初の出会いは、2018年7月から9月にかけて久留米市美術館で開催された「ブラティスラヴァ世界絵本原画展」だ。料理家高山なおみさんの幼い頃の自伝的な物語を描いた絵本『どもるどだっく』(ブロンズ新社)。並みいる日本人絵本作家の原画の中で、ひときわ爆発的な生命力と存在感にあふれていた。改めてその時の図録を見ると、作家のコメントがあった。この絵本に圧倒され、『たべたあい』(文・高山なおみ/リトルモア)、『ミツ』(佼成出版社)、『おはなしトンネル』(イースト・プレス)、そして『旅芸人の記録』(くちぶえ書房)と、次々に読んだ。「描けなくなっていた時期」を経て、生まれてきたもの。そのどの作品にも、みずみずしく輝く命が画面いっぱいに描かれていた。
『幼い頃から、モノを拾う癖がある。誰のコートか、スカートか。とれたボタン。変てつもない石ころ。木片、ビー玉、パチンコ玉…。おもいだすと、きりが無い。なんだか“イケナイコト”をしている気分、になりながら、そいつをポケットに仕舞い込む。内に手をいれ、指でコロコロ、たしかめる。誰も、いないところでそれを、取り出す。その“モノ”は、異彩を放つ、そしてはじめて、“出合う”のだ。たしかに、ここに在る。そう思えるのだ。』 (註2)
絵本との出会いの後、開催された本展「くちぶえサーカス」。Operation Tableを下見して、サーカス一座のイメージができたと聞いた。初日は、旅芸人がテントを設営するように、中野さん自身が作品を飾り付ける現場に立ち会える「搬入飾りつけshow!」。絵本『旅芸人の記録』『くちぶえサーカス』から飛び出した旅芸人たちが、大小さまざま、手作りの額に収められ壁一面に並べられていく。流木の立体作品、小さな土人形、手術台には、古めかしいマッチ箱やチョコレートと見紛うばかりの木彫りの箸置き、手回しオルゴール、用箋ばさみや、なんだかわからない“拾われた”モノたちがちりばめられている。“モノ”との“出合い”、そのモノが“在る”ことを舞台で確かめよう。さあ、旅芸人のトランクショーだよ。お気に入りは誰よりも先に!!初日の特権で、駄菓子入れでできたトンネルで雨宿りする猫(タイトル「雨宿り」)を手に入れた。モノとの出合いから生まれる、画材や手法にこだわらない自由な表現も魅力だ。Operation Tableの受付窓口には、購入者に合わせて中野さんが表紙を仕上げるという、限定発売の絵本『旅芸人の記録』が並んでいた。1000部限定の絵本が、さらに私だけの1冊になるのだ。短い会話を交わした後に描かれる絵は、その人との出合いから中野さんが顕在化する、その人が在ることの証だったのか。
『いたんですよ、その猫、脚をなくした猫…。飛べなくなった蝶も、置き去りにされた人形も。実際に目にしたものを描いてますね』 (註3)
「くちぶえサーカス」イベント第2弾は、くちぶえ一座のライブペインティング。末森樹さんのギターと山福朱実さんの唄に合わせて画家の中野さんが描く。一座のまかない担当の料理家高山なおみさんの一口料理もあるという。入口天井から美味しそうなソーセージがぶら下がり、初日よりさらに活気に満ちた会場には新たな作品も生まれていた。会場に飾られていた写真のなかの、祭りの装いをした少女と同じメイクに、赤い民族衣装を纏った山福朱実さんは、すっかり旅芸人。末森さんのギターがひそやかに始まると、2枚に分けられた白いキャンバスに真っすぐな道が描かれる。ひとりの少女の後ろ姿…。絵筆から両手のひらを使ったダイナミックな表現となり、画家が出会った人やモノが次々と描かれて重なっていく。途中、Operation Table裏の空き地に面した壁に用意されたもうひとつのキャンバスに移動。横長の大画面に綱渡りの女や大車輪の猫が描かれた。これがうらんたん文庫にある作品。夜半の雨に打たれた後、描きなおしたそうだが、皿倉山と洞海湾のようにも見える。室内の絵はふたりの旅芸人の肖像画となった(ように見えた)。画家は絵の裏側に姿を消し、旅芸人となって再登場!会場は大喝采。ギャラリーOperation Tableが、一気にくちぶえ一座のサーカス小屋と化し、観客は皆生き生きとそこに在る。高山なおみさんのまかない料理を食べ、飲んで歌い、笑い、踊る。中野さんが出会ってきたもの、見たもの、聴いたものと、そこに集った人たちとの確かな出会いが混ざり合う豊かな時間。くちぶえ一座のテーマソングも披露され、サーカス一座の夜は更けていく。
これまで出会った中野さんの絵本の世界は、印刷された数ページ限定の枠の中。今回の作品展は、絵本に凝縮された周辺の様々な「在るもの」の姿を、作品とパフォーマンスで実演し、ダイナミックで生命力、存在感にあふれた絵本の秘密を、惜しげもなく全て見せてくれた展示だった。
次の絵本がどんな物語になろうと、きっとそこには「在るもの」が描かれる。空き地の外壁傍に立つ杭にポツンと置かれていた蝉のヌケガラを、画家は持ち帰っただろうか。
(註1)展覧会図録 『ブラティスラヴァ世界絵本原画展ーBIBで出会う絵本のいま』、作家コメントから。展覧会は、久留米市美術館にて2018.07.21(土)〜09.09(日)開催された。久留米市美術館からスタートし、奈良県立美術館、千葉市美術館、小杉放菴記念日光美術館、うらわ美術館の5会場を巡回した。
(註2) 「『旅芸人の記録』出版にあたり」より。中野真典『旅芸人の記録』 くちぶえ書房、 2018年12月刊行
(註3) Operation Table「くちぶえサーカス」展会場での中野真典談。
筆者紹介: うらんたん文庫は福津市にある私設図書館。絵本や写真集・芸術書を入口に、気軽に文化・芸術にふれ心豊かに過ごせる本読み場。坂元美由紀さんはその店主である。
https://biblia-fukuoka.info/urantanbunko/