「遠賀川神話の芸術祭~川から山へ、山から川へ カワからヤマへ、ヤマからカワへ 河村陽介+長野聡史」
長野聡史さん撮影の会場展示写真をアルバムにしました。
展評を北九州市立美術館学芸員、清田幸枝さんに寄せていただきました。
関連企画「山福朱実+末森樹 歌とギターとお話ライブ;山本作兵衛 ゴットン節を聴きながら・・・」の記録をまとめています。
長いタイトルの企画展のお知らせ
やはたアートフォレスト2021〜パレットの樹〜関連企画 遠賀川神話の芸術祭2021
川から山へ、山から川へ
カワからヤマへ、ヤマからカワへ
河村陽介 + 長野聡史
「遠賀川神話の芸術祭2021」は八万湯プロジェクトの企画で開かれます。JR八幡駅周辺の商店舗や、響ホール、北九州市立八幡図書館、北九州市環境ミュージアムなどの公共施設、そして小倉北区のGallery SOAPと、Operation Tableという8つの会場にまたがり、北九州市内、福岡県内、山口県で活動するアーティスト12名+1ユニットによる展覧会です。
https://m.facebook.com/events/4533457500080749/?event_time_id=4533481313411701&_rdr
「川から山へ、山から川へ カワからヤマへ、ヤマからカワへ」
長野聡史 NAGANO, Satoshi
写真を使って自分が見たいものを作っている。
ただ、他人が自分の撮った写真を見ることでその人に一つのモノの見方がインプットされ、その反応がウイルスの様に広がっていくイメージを持って活動している。これは作品に限ったことではなく依頼されて撮る仕事の写真も同じことが言える。
1975年 福岡県大牟田市に生まれ、宗像郡福間町(現・福津市)で育つ。
1998年 九州芸術工科大学卒(現・九州大学芸術工学部)。
学生の頃から作家活動を開始する。
東京の写真スタジオに約6年勤務の後、帰省
2010年よりフリーランスカメラマン
現在、田川市在住
●個展
2004年 「one」bemch (東京都杉並区)
2009年 「まほろば」Gallery YANYA (福岡県行橋市)
●主なグループ展
2010年 「津屋崎現代美術展」 旧玉乃井旅館 (福岡県福津市)
2010年 「筑豊アートシーン2010」 直方谷尾美術館 (福岡県直方市)
2012年 「ゴットンアートマジック」川崎町商店街 (福岡県田川郡)
2014年 「大隈アートマジック」 (福岡県嘉麻市)
2016年 「その向こうの-」 WALD ART STUDIO (福岡市博多区)
2017年 「Hachiman-The Legend-」BAGZY(北九州市八幡東区)
2020年 「スクラップ オブ KAWARADAKE」 採銅所駅 (田川郡香春町)
「go to Togo」2010年(津屋崎現代美術展)
「here comes the sun」2016年
「八幡国見百景」2017年
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河村陽介 KAWAMURA, Yosuke
「あったかくて、元気が出て、うれしくなって、みんなが絵を好きになって、それぞれの心と心とが繋がってゆく、そんな絵を描きたいです。」
1988年 福岡県宮田町生まれ(現宮若市)。
2006年 大和青藍高等学校卒。赤星月人先生の画塾にて絵を学ぶ。
九州産業大学芸術学部美術学科に入学。
2010年 同上卒業。
2010年 筑豊に戻り織田廣喜美術館(嘉麻市)にて臨時職員として勤務。
2011年9月 美術館を辞め、横浜の黄金町バザール、筑豊スカブラ市場にて常駐スタッフ
2012年夏 ゴットンアートマジック実行委員、作家兼スタッフとして活動。
現在作家として筑豊を拠点に活動中。
常設展示:
ショップ「ひる庭」(北九州市八幡東区)、ラーメン屋「宝来軒」(田川市)、占い・気付けのお店「縁」(新飯塚)、 シフォンケーキ、カノン(川崎)
アンコルドパン(飯塚) からあげ&カレー焼き 次元 (直方) カワムラ家具(西区)仕出ししまや(直方) 他...
〈収蔵〉嘉麻市織田廣喜美術館、飯塚片島児童センター、直方西小学校、福智町図書館・歴史資料館「ふくちのち」
〈個展〉
直方谷尾美術館 (直方)
アートスペース谷尾(直方)
画廊カンヴァス(直方)
ギャラリー風(天神)
ギャラリーフォレスト(東京都中央区銀座)
酒まんじゅうの香月屋(飯塚市)
ギャラリーこのはずく(田川市)
シフォンケーキ・カノン(田川市)
雑貨ぷろむなーど(飯塚市)
ギャラリーあんど (北九州市小倉南区)
他...
〈グループ展〉
福岡市美術館、石橋美術館、織田廣喜美術館、直方谷尾美術館、アジア美術館、九州産業大学美術館、嘉穂劇場、町田市国際版画美術館 (町田市) 他...
HIKARI 2010
嘉穂劇場 2013
織田廣喜ものがたり 2014
僕の好きな先生 2016
【会場写真:撮影者=長野聡史】
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【関連企画】
山福朱実+末森樹 歌とギターとお話ライブ
「山本作兵衛 ゴットン節を聴きながら・・・」
2021年11月23日(火・祝) 14:00-15:30
会費 2,000円(ドリンク付)
末森樹さんのギター演奏と朱実さんの歌と朗読によるライブ。山福朱実さんのご尊父、山福康政さんは上野英信の「筑豊文庫」との縁も深く、生前の山本作兵衛さんとも親交がありました。その山福家所蔵の貴重品のひとつ、筑豊文庫で収録、上野朱氏が発行した、山本作兵衛さんと炭坑婦の藤山スエさんが歌う、炭坑節のCDアルバム音源『作兵衛 絶唱』を聴きながら、朱実さんの思い出話もうかがいます。
(メールマガジンのご案内で、「山本作兵衛さん夫妻が歌う炭坑節・・・」としたのは誤りでした。たいへん失礼いたしました。)
末森樹+山福朱実
山本作兵衛「ゴットン節」
このライブの日に、一日だけの山本作兵衛炭鉱画原画が7点、サプライズ展示されました。筑豊文庫の上野朱さんは山福朱実さんの盟友で、この日のために参加者に見ていただこうと原画を持ってきてくださったのです。メールマガジンでのお知らせが直前だったので、上野さんの貴重な提案も前日となり、多くの方にご案内できず申し訳ありませんでした。上野さんは、作兵衛さんの歌うゴットン節を1968年に録音して、約40年後にCD『作兵衛絶唱』(題字は上野英信)として発行されました。現在では入手しがたい貴重なものです。
⇒
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I023435428-00
このCDを会場にて再生し、そのあと山福朱実さんと末森樹さんの歌とギターによる「炭坑節」が続き、その他、炭鉱関連の曲や世界の労働歌も聴くことができました。
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撮影: 大浦まゆみ 撮影: 坂元美由紀 撮影:坂元美由紀 |
筑豊へのまなざし
川から山へ、山から川へ カワからヤマへ、ヤマからカワへ 河村陽介+長野聡史展によせて
清田幸枝
福岡県嘉麻市馬見山から響灘へと流れる遠賀川は、かつては筑豊炭田を貫流する石炭輸送路として、また大陸文化の交流地点としてその役割を果たしてきた。「遠賀川神話の芸術祭2021」に関連して、この遠賀川が流れる筑豊地区を拠点に活躍する、河村陽介さん、長野聡史さんの二人展がoperation tableで開催された。筆者は、かつて二年ほど嘉麻市立織田廣喜美術館に勤務した縁で、二人とはアートプロジェクトやワークショップを共にする機会があり折に触れ作品にも接してきた。「川から山へ、山から川へ カワからヤマへ、ヤマからカワへ」。カワ(遠賀川)からヤマ(炭鉱)へと続く、そんな情景を想像しながら会場を訪ねた。
河村陽介さんの作品はあたたかい。「あったかくて、元気がでて、うれしくなって、みんなが絵を好きになって、それぞれの心と心とが繋がってゆく、そんな絵を描きたいです。」そう作家が語るように、多幸感に包まれた作品を前にすると思わず顔がほころび穏やかな気持ちにさせられる。会場メインの展示室には《きみはひかりだ》(2016年)、《lily》(2020年)、《しまやの筑豊物語》(2021年)など、アクリルと水性マーカーで描かれた絵画作品が並ぶ。独特の表情でまっすぐに見据える子どもたちと、点描による豊かな色彩が画面を渦巻き目を楽しませる。本展には平面作品の他に、田川郡福智町の上野焼宗家 渡窯 第十二代 渡仁氏に焼き上げを依頼したという埴輪が展示された。河村さんの作品は「Cake Kanon」(田川)、「アンコル ド パン」(飯塚)など筑豊の町にいくつも常設展示されている。そうしたことからも、筑豊を愛し、愛され、河村さんのアートを通じ人と地域とが繋がっているのだと感じさせられる。本展の出品作《しまや筑豊物語》もまた、河村さんの視点から筑豊を伝える作品のひとつだろう。本作は直方市の仕出し料理店「筑前やまや」との共同企画で生まれた紙芝居作品である。直方市出身の力士魁皇と勝利の花火を上げるおじいさんの物語「勝利の花火」や、宮若市の地名「犬鳴」に纏わる話など、筑豊地区の伝説や現代の物語などを紙芝居として12話を描き、YouTube「しまやチャンネル」で動画配信がされている。地域に寄り添う河村さんならではの魅力を感じさせられる内容であった。
長野聡史さんの作品は大きく二つのシリーズで構成されていた。会場に入って正面のフロアには、写真と映像による《馬見/足白》(2018年)が展示されている。遠賀川の源流点である「馬見」とその麓に位置する「足白」。馬見と足立の伝承を基にした本作は、「神武天皇が見たかもしれない光景の再現ではなく、伝承をもとにした未だ見ぬ新しい現代の筑豊のビジュアルの提示」だという。モニターからは、作家の記憶を覗き見るような揺れ動く視点のなか、森の中を駆け回る馬と、穏やかな山中の様子が重なり合うイメージが映しだされていた。映像の横には、神武天皇が見た光景を想起させる白い足の馬と、現在の馬見山の山中が対となって掲示されている。駆け出す馬の動と森の静、古くに伝わる馬見山と現代の馬見山、光と影、そうした対概念を反復させながら、新たなイメージを与えているように感じられた。
「大和には 郡山あれど とりよろふ 天の香具山 登り立ち 国見をすれば
国原は 煙立つ立つ 海原は 鷗立つ立つ うまし国そ 蜻蛉島 大和の国は」*
メイン会場入り口の頭上には、遠くの海と山々を見渡す風景写真と共に、舒明天皇の万葉集の歌が飾られている。目線を落とすと、《香春国見百景》(2021年)と題した、100枚に及ぶ写真群が壁面を埋め尽くしていた。「その土地の伝承を調べて山頂などから「国見」をしたと見立て現代の風景を切り取る「国見百景シリーズ」」のひとつである。本展に出品された作品もまた、舒明天皇の国見の歌や、様々な筑豊の伝承や歴史をベースに、福岡県の田川郡香春岳の三ノ岳山頂から「香春国見」として今の風景を捉えたものだという。風景写真としては珍しく縦構図による構成である点が、風景の「切り取り」であることを強調し、周辺景色への想像も働かせる。歌にある「天の香具山」は奈良県天香久山とされているのだが、香春岳の三ノ岳だという説もあるのだという。諸説あるこの三ノ岳頂上から、香春町の田園風景や、コンビニエンスストア、民家、そこに住む住民たちのありのままの姿を、長野さんは静かに淡々と写し取っている。そこには人里を見渡し国の平和を詠った情景を追体験するかのように、あたたかな眼差しを感じずにはいられなかった。
会場の入り口では、長野さんの写真に河村さんが手彩色を施した作品や、河村さんの焼き物を長野さんが撮ったというコラボ作品が我々を迎えてくれた。筑豊を共通とした二人の異なるアプローチによる展示。「川から山へ、山から川へ カワからヤマへ、ヤマからカワへ」。会場には懐かしさを感じる筑豊の空気が広がっていた。
(北九州市立美術館 学芸員)
*万葉集 第1巻2番歌。