企画展第7弾 前編
世良京子
トンネルのむこうに
After Walking Through a Tunnel
2013.11.2 Sat.-12.15 Sun
11:00-18:00 土日のみオープン平日は予約制
○
光のレッスン
Lesson of the Light
2014.2.8 Sat.-3.30 Sun
11:00-18:00 土日のみオープン平日は予約制
□
アーティストトーク&オープニングレセプション
@Operation Table
11.2 Sat. 15:00〜
参加費 1,000円 (トークのみ500円)
世良京子「トンネルのむこうに」
川浪千鶴(高知県立美術館企画監兼学芸課長)
今回は展評ではなく、世良京子さんと彼女の作品に触れて「感応」したことを、私的な感想として綴りたいと思う。
まずは交友の回想から始めたい。
20数年前にアーティストと学芸員として、世良さんと私は出会った。1994年、私が企画した福岡の現代美術家7人のグループ展「七つの対話」に参加してもらった頃から、同い年だったこともあって自然と親しい友人になっていった。とはいえ、その後世良さんがニューヨークに居住することになったため、2000年以降は数回程度しか会っていない。
その数回の内の1回は、2009年の夏にニューヨークのスタジオを、私が彼女の滞在中ただ一度訪ねた時のこと。
彼女はこれまで手がけてきた《クロスモデル》について、作品の一部や写真資料をもとに丁寧に説明してくれた。さらに、ピンクの作品シリーズを見せながら、新たなシリーズの手触りや手応えについて熱心に語ってくれたことも思い出す。
アクリル絵具の色や諧調を繰り返し確認し、さまざまな紙との相性を試し、布やマット、ビニールシート、木材など異素材と組み合わせ続けているアトリエが、創作というより「実験」の現場めいて見えたことも印象に残っている。
9.11同時多発テロ以降、混迷を深めていくアメリカの社会状況下、彼女はアート界でのいわゆる成功を目指して創作活動を行うのではなく、徐々に「絵画制作を通じて自身の位置を模索」することを目的に選んでいったのかもしれない。
そういえば、世良さんにとってのニューヨークは、かつて日本で筆を折ることまで思い詰めた絵画の道を、再びそして生涯歩み続けていく決心をさせてくれた大切な場所だった。
2012年に彼女は帰国したが、今度は私が長年勤めた福岡県立美術館から2011年に高知県立美術館に移籍。現在も単身赴任で高知に在住しているため、またもやすれ違いのまま今に到っている。
忙しさから福岡への帰省もついつい間遠くなってしまいがちな中、2013年に開催された世良さんの帰国後初の個展「愛のレッスン」(ヤマネアートラボ、福岡市)と「トンネルのむこうに」展(オペレーション・テーブル、北九州市)の両方を見ることができたのは幸運だった。
「愛のレッスン」展では、ギャラリーの壁は、ニューヨークのアトリエで目にしたあの輝くピンクの作品で埋め尽くされていた。
マスキングテープを使って描かれた、ピンク色の細かいグリッドの作品を次々に見ていて、何とも不思議な浮遊感を覚えた。物質である絵の具は確かに支持体である紙の上に乗っているのだが、向こう(絵画空間)とこちら(現実空間)の双方を行き来しているかのような微動。作品と作品をとりまくものをかすかに溶け合わせ、つなぎあわせる微細な動きを感じた、とでもいえばいいかもしれない。
「愛のレッスン」展で、私はピンク・グリッドの上にビーズで天使のシルエットをかたどった小品を購入した。額装後、高知まで送付された作品には、これはメッセージを伝える巻物を携えた、ベルニーニの天使像であると書かれた彼女の手紙が添えられていた。
ピンクのメッセンジャーのおかげもあって、その後私たちはこれまでにない頻度でメールや電話を交わしている(主に私からの相談事として。ふたりの会話の中心は、とにかくも「自分をよく知る」こと)
そうした最近の交流も含めて、そのきっかけとなった彼女の作品には、見る人に「触れる=憑く」力が秘められているのではないかと、個人的に思い始めている。
「トンネルのむこうに」展では、再構成された《クロスモデル》の発するエネルギーに圧倒された。これまで《クロスモデル》のコンセプトや作品の一端に触れることはあっても、これほどの規模のインスタレーション作品として実見したことはなかった。
作品群は、動物病院の診察室だったギャラリー空間のあらゆる場所や設備と一体化しつつも多面的な様相を呈していて、見飽きることが全くなかった。作品の「微動」は視点を変えるたびに変調され相乗され、結果、展示空間全体が豊かなポリフォニーを奏でているかのようだった。
彼女はこれらを作品や展覧会の実験ではなく、「私のライフの実験」と呼んでいる。これまでアーティストである自分だけで決めてきた展示構成を、ギャラリーのオーナーや協力者と相談しながらみんなでやってみたら、思いがけずいい結果につながったとも。
悩み多き50代として、最近の私は「身一つ」の矜持について考えることが多い。それは身一つしかない悲壮感ではなく、身一つのぶれない「手応え」とでもいうべきか。「自己の内部に現にあるもの」を大事にしながら他者とともに行動することを肝に銘じている今日この頃である。
「いま・ここ」に「在る」自分をつくっているのは、内的な要因だけでもなければ、外的な要因だけでもない。身一つで世界に触れることが、そのまま個としての自分を知ることになる。そういう学びを彼女と彼女の作品からしつつある。
「トンネルのむこうに」の後篇であり、「愛のレッスン」の続編でもある「光のレッスン」展で、世良さんがどんな次なる実験を行うのか、そしてそこで自分がどんな感応をするのか、楽しみにしたい。
企画展第7弾後編
光のレッスン
Lesson of the Light
2014.2.21 Fri.-3.30 Sun
11:00-18:00 土日祝日のみオープン 平日は予約制
アーティスト・トーク&レセプション “光のディナー”
@Operation table
2.21 Fr. 19:00〜
参加費 1,000円 (トークのみ500円)
クロージング・イベント
3月29日(土) 19:00〜
建畠晢「死語のレッスン」ポエトリー・リーディング
つづき世良京子とのトーク・セッション
その後レセプション「光のディナー」
参加費 1,000円(聴講のみは500円)
Operation Table エントランスの左壁には、「光」の言葉を含む文学、哲学、自然科学、社会科学のテキスト断片の引用からなる壁紙が貼られています。その中央にあるのが「死語のレッスン」からの一片です。壁の右隣りにある白い扉には来場者のみなさまに「光」にまつわる言葉やイメージを残していただいています。最終日まで「光のレッスン」が続く世良京子作品会場と同じように、こちらの壁も「光」で溢れますように。
「光のレッスン」は、NYでの滞在11年のあいだに制作発表された「クロスモデル」
を中心とする作品群から再構成された「トンネルのむこうに」の後編となります。
そしてまた帰国してまもなく昨年1月〜3月に福岡市のヤマネアートラボで開催された
「愛のレッスン」の続編でもあります。「愛のレッスン」で世良の作品にはじめて表れ
たピンクという色彩は、グリッドやビーズで形どられた天使のイメージに散りばめられ、
9.11以降のNYの人々の、心の平安を求める傾きを反映したものだったともおもわれます。
「光のレッスン」は黒板の上で始まります。サイ・トゥオンブリーの走書き絵画への
オマージュとして…。
緑灰色に塗られた板壁やパネルには、世良の初期絵画や「槍の女神スートラ」の
シリーズ背景に見られたものを思わせる強いストロークが走り、その上に引かれた
チョークの微かな線描にはたしかにトゥオブリーのぐるぐる円が連なった黒板
ペィンティングに似せられたものもあります。別のパネルには、アートの歴史や
自然科学、幾何学、そして宇宙の神秘をめぐるさまざまな光の物語や図形が紡ぎだされ、
そこではビーズやパールの欠片が飾る光の粒子が戯れています。世良によれば「敬愛
する作家の作品(ラインとフォーム)、宗教画の中の人のふるまい、幾何形体、
フォトン(光子)、上位意識など、様々な光の在り方を集め」たものとなっています。