artist-in-residence / alternative space
Operation Table
has been inaugurated in April, 2011
News
11月9日から24日まで開催していました「遠賀川神話の芸術祭」にライターの黒川智子さんから展評を寄せていただきました。
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第37回QMACセミナーのお知らせ
今週金曜日、12月6日から3日間開催の第37回QMACセミナー「力、あるいは力|空間」をご案内します。
「空間」は大分県を拠点に活動する、パンクバンドです。弱(チンピラ)虫と下野青のユニットで、即興性のある演奏や、ZINE・インスタレーションなどの制作を行っています。
インスタレーション 12月6日(金)ー8日(日) 11:00~18:00 入場無料
ライブ 12月8日(日) 15:00~16:00 1,000yen
パーティー 16:30~ 500yen+drink
会場 Operation Table (八幡東区東鉄町8-18)
最近の「空間」の活動
2024 5月
展示「展示 春 ZINE 空間」(文ヶ学, 大分)
ライブ(10 COFFEE BREWERS OITA, 大分)
7月
ライブ(10 COFFEE BREWERS OITA, 大分)
10月
展示「イングリッシュタイトル・ここにこれ・そこにあれ・わからない・かわらない・パキラの不在・そのうちのどれか」(文ヶ学)
インスタレーションは、身の回りの物や植物、紙や粘土のオブジェを空間の中に点在させるものですが、ときには空間は変容し続け、設営や移動の作業も公開することもあります。
パンクのミュージック・ライブと合わせて、3日間のインスタレーションをお楽しみに、どうぞQMACセミナーヘご来場ください。
下野青は「空間」のバンド活動のほか、下野薫子の名でアーティスト活動も行ってきました。以下、下野薫子をご紹介します。
東京出身、武蔵野美術大学油絵学科卒。大学卒業後、デジタルの絵画作品を制作し発表する。国内各所、フランスなど様々な場所を経て2020年別府に移住。現在、インスタレーション、詩と陶芸を中心に作品を制作している。
2013 「武蔵野美術大学造形学部卒業制作優秀作品展」武蔵野美術大学
「アートアワードトーキョー丸の内」行幸地下ギャラリー
2014 第8回グラフィック「1_WALL」展 ガーディアンガーデン(銀座)
下野薫子展「Infinite Painting」ガーディアンガーデン(銀座)
2015 The Second Stage at GG #39「拡散するグラフィック」展 ガーディアンガーデン(銀座)
2021 下野薫子個展『The Field』大分市アートプラザ
村田峰紀のパフォーマンス映像と画像を掲載しました。
8月〜9月に開催していました「「NAGAB 長崎からのアール・ブリュット」、うらんたん文庫の藤田学さんから展評を寄せていただきました。
QMAC企画からの第三弾となる黒岩恭介著『フランク・ステラ さまざまな視点から』を発行しました。
ここをクリック
終了して1年余りが過ぎた展覧会ですが、昨年6月23日から8月27日まで開催していた「林檎と蜜柑の数え方」の展評に替えて、東アジア現代美術研究者の藤田千彩さんによる三津木晶さんへのインタビュー記録を公開しています。
なお藤田千彩のインタビューは22,000字に及ぶ長いものでしたので、ホームページ掲載用には短縮版を、フル・ヴァージョンはリンクを張ってお読みいただけるようにしています。
このたびQMAC企画から『高松次郎インタビュー記録集』を刊行しました。
黒岩恭介「フランク・ステラ、思い出すことなど」を掲載しました。
「アキレスと亀と旅ねずみ」展の展評を佐賀大学の花田伸一さんに寄せてもらいました。
遠賀川神話の芸術祭2024 のお知らせです。
会期 2024 11/9[土]⇒ 24[日]11:00~18:00
会場 さわらびガーデンモール八幡一番街 1F休憩スペース(JR八幡駅前)
Operation Table (八幡東区東鉄町8-18)
※ Operation Table は金土日 11:00~18:00、月~木は前日までに要予約
遠賀川流域は大陸との位置関係が近く、歴史、産業、文化的に重要な場所でした。「遠賀川神話の芸術祭」は「やはたアートフォレスト〜パレットの様~」関連企画として継続し、東アジア文化都市2020-2021パートナーシップ事業「遠賀川神話の芸術祭2021」では、再度、遠賀川流域の本質や大地の力を検証し、地域固有の芸術表現を生み出しました。今回も北九州周辺地域のアーティストの交流の場としての展覧会「遠賀川神話の芸術祭2024」を開催します。
参加 Artists: 狩野信喜、亀川豊未、河村陽介、重松希、鈴木淳、田中奈津子、鶴留一彦+森秀、ナカムラタツヤ、
村田峰紀、服部夏子、福地英臣、安田尚平
2024年11月9日(土)16:00~
オープニングトーク+パーティー
Operation Table
参加料1,000円
2024年11月17日(日)15:00~
村田峰紀パフォーマンス
Operation Table
参加料2,000円
※パフォーマンスのみ観覧の場合は参加料1,000円
田中奈津子 Natsuko TANAKA
ガラスブロックの前に下がっているのは、染色した布にペイントした最新作"The Garden of Forgiveness #8"、壁にはその関連作3点(額装)がかかっています。
i. The Garden of Forgiveness #8
150 ×82 2024
Batik, Acrylic
ii. The Garden of Forgiveness #9
31×21 2024
Batik, Acrylic
iii. The Garden of Forgiveness #10
31×21 2024
Batik, Acrylic
iv. The Garden of Forgiveness #11
31×23 2024
Batik, Acrylic
福地英臣 Hideomi FUKUCHI
右壁面にマンガを題材にした「創造で、また、世界を変えて。」が吊り下がっています。
創造で、また、世界を変えて。
610×2300mm 2024
キャンパスとセルロイドシートに
インクジェットプリント
鶴留一彦 + 森秀信 Kazuhiko TSURUDOME + Hidenobu MORI
左のガラスケースにてDVD作品「KANMON」をループ上映しています。
KANMON10
2023
DVD 10min., 31.5inchモニター
亀川豊未 Toyomi KAMEGAWA
正面の受付室に和紙ドローイング2点と樟+テラコッタンボオブジェが置かれています
i. 若い植物
和紙、鉛筆、木炭 2018
ii. 木漏れ日
和紙、木炭 2019
iii. 土の生き物
テラコッタ(野焼き) 2022
iv. 無題 オブジェあるいはディフューザー
樟 2023
北九州市立美術館カフェ・ミュゼでは亀川の個展開催中。12/8まで。Operation Table会場と合わせてお立ち寄りください。
服部夏子 Natsuko HATTORI
メインギャラリー 手術台x2、東+北タイル壁面 倉庫扉
北九州での展示は約10年ぶりの服部は、タイル壁と手術台の上に、縫いぐるみによるコラージュ作品を並べました。カフェ・ミュゼでも亀川豊未個展に続き服部夏子展が予定されています。(12.22~2025.2.24)
i. 麒麟
布、綿
ii. Overwrite
布、綿、アクリル絵具、スプレーペイント
キャンバス
iii. First Shoes
靴、布、綿
2022~2024
iv. Awake
布、帯、着物、綿 2017
v. Diary
布、綿、アクリル絵具
vi. Tart stone
布、綿、アクリル絵具、スプレーペイント、
キャンバス
vii. Mars stone
布、綿、アクリル絵具、スプレーペイント、
キャンバス
ナカムラ タツヤ Tatsuya NAMAMURA
メインギャラリー倉庫+扉2面
メインギャラリーの倉庫を半分空っぽにして、最近発表を続けている、和紙に鉄錆や銅の緑錆で描いたドローイングの上に古い建物壁面のひび割れを撮った写真を貼った紙作品を展示し、薄暗い裸電球で照らしています。
TRACE 2024(遠賀川の罅)
2024
紙、プリント、鉄、銅
重松 希 Nozomi SHIGEMATSU
メインギャラリー西側窓際+ニッチ+手術台
Operation Table初登場の重、メインギャラリーの西窓際とその隣りにある小さなニッチ、手術台1台にドローイングを背景にして、鉄のオブジェや魚のドローイングをおいています。
i. 製鐵所の風景
トレーシングペーパー、クレヨン 2023
ii. 山
鉄 2023
iii. いしがきだい
紙、クレヨン 2022
iv. まとう
紙、クレヨン 2024
v. まとうのお腹にいたさかな
紙、色鉛筆 2024
vi. girlstalkabout
鉄、クレヨン 2024
vii. 楽団員(たいこ)
鉄 2022
viii. 山
鉄、クレヨン 2024
viii..楽団員たち
鉄、クレパス 2024
ix.耕す
鉄 2017
鈴木淳 Atsushi SUZUKI
メインギャラリー南側パネルx2+白い家用器具ケース+北側ニッチ
メインギャラリー南側壁面のパネル2枚と、その真ん中に置かれた白い医療器具ケース、東壁面の隅にあるニッチを使って "On the Bed"" Just One Tree"のおなじみのシリーズに、"fART(おなら)"という何やら匂いそうな新尻いずが加わりました。
i. On the Bed
木製パネル、アクリル絵具 2024
ii. Just One Tree
木製パネル、キャンバス、アクリル絵具 2024
iii.fART(おなら)
木製パネル、キャンバス、アクリル絵具 2024
狩野信喜 Nobuyoshi KANO
メインギャラリー北側パネル
版画作品を発表してきた狩野信喜は、最近取り組み始めた金属レリーフの作品をメインギャラリー東側パネルに掛けました。
大川清力美術館展のためのエスキース、”Departure 2024-10”です。
Departure 2024-10
大川清力美術館展のためのエスキース
プロペラ、滑車、アルミニウム板 2024
河村陽介 Yosuke KAWAMURA
ベッドルーム全体を日常性そのままにして、下着を被った鉄腕アトム人形やAV系のポートレートを箱やシルクスクリーンのキャンバスにプリントしたりして、アンディ・ウォーホル紛いの猥雑な空間を演出しています。
i. ASTRO BOY
鉄腕アトムのぬいぐるみ ブリーフ
H33×D20xW12 ㎝
ii. パンパンのパンツ
アクリルケース ブリーフ
H10×W10 ㎝
iii.パンパンのパンだ
アクリルケース パンダのTシャツ
D3xW8×H3 ㎝
iv.春を売る人
P50 キャンバス アクリル
116.7×80.3㎝
v. 少年時代
白ポスト 8x14 ㎝
vi. 小さなビニ本
4㎝×3㎝
安田尚平 Shohei YASUDA
バスルーム
ガラスでできた使い物にならないコンセントや、やはり思いがけないガラスでできた吸いかけのタバコがのった灰皿を潜ませているのは安田の仕業です。
i.プラグとコンセント
ガラス 2022
¥44,000
ii.プラグとコンセント
ガラス 2022
¥44,000
iii.余韻
ガラス 2015
¥55,000
遠賀川神話の芸術祭2024に寄せて
黒川智子
「遠賀川神話」とはどんなものか、その芸術祭では何が行われるのか、その辺のことは全く知らず、ただ、久しぶりにoperation tableにうかがえることがうれしくて、11月9日のオープニングトークに駆け付けた。始まりの時間には間に合わなかったが、なんとかセーフ。すべての参加アーティストのお話が聞けたのは幸いだった。
エントランスのバティックの布地は田中奈津子氏の作品。インドネシアと北九州市を往復して暮らす田中氏のトークで響いた言葉は「寛容」。宗教も言語も違う民族が共に生活している国ならではの寛容さ、その心地よさがインドネシアにはある、と。インドネシアは世界第4位の人口を誇る大国なのだが、懐も深い。彼女は以前、プリントされたバティックに描くという形で作品を作っていたが、今回の出品作は自ら植物模様をろうけつ染めで施したバティックにさらに墨絵のような色彩で絵を描き加えたもの。その説明を聞いておやっと思った。私はてっきり墨絵のような部分が地で、その上に植物の絵を描き加えたのだと勘違いしていた。下地と上描きの逆転が妙に面白かった。ろうけつ染めを理解していれば、こういう勘違いは生じないのだろうから、素人とは困ったものだとも言えるが、下が上に見える、上が下に見える、そこは寛容に楽しませていただいた。(編註1)
同じくエントランスにあった福地英臣氏のキャンパスとセルロイドシートにインクジェットプリントを施した作品は、不思議な立体感を漂わせていた。ご本人が欠席で詳しい説明を聞けなかったのは残念。(編註2)
森秀信氏と鶴留一彦氏による作品「KANMON」はモニターに映し出される動画なのだが、たとえば、中央の背中合わせに立った二人の男性はほとんど動かない。周りの旗が風に揺れていることで動画と分かるくらいだ。作品のわきに立ってその説明をしてくれたのは森氏。彼の説明が、この日、一番神話を感じさせた。まず、彼のそのたたずまいに驚く。口から流れる言葉に二度驚く。普通に見えた人がどんどん巨視的な視点を持つ巨人に変身していく。彼の言葉が、雲の上から細長い日本列島を見下ろす神々の言葉のように響く。モニターの中で揺れる旗。あれは高天原からの風に揺れているのだ。(申し訳ないが、私は俳句好き、それも奇妙な俳句が好きなせいで、人の言葉も勝手に解釈して面白がる癖がある。意味不明な部分は無視してください。)
それにしても独自の観察で関門を点で包囲するように作品を制作する、その意図、思想は何なのだろうか。どんな構想でこの作品は作られ続けているのか、その全貌が、少なくともこれまでの足跡を知りたいと思い、トーク後の森氏にすでに制作された作品を見る方法はないのか、お尋ねしたが、どうやら、簡単には見られないようであった。もしかしたら、私は全く方向違いのとらえ方をして、失礼にも氏に「全身を裏返して見せてください」と言ってしまったのかもしれない。
受付室に展示されているのは亀川豊未氏の和紙に木炭で描かれた絵画とテラコッタ、そして楠で作られたディフューザー。彼女は遠方からON LINEでのトークであったが、液晶画面からひょいと乗り出してきそうな話しぶり。特にディフューザーの素材を「木っ端」と表現するのが、私の耳には新鮮だった。コッパと言えば、コッパミジンだろうと思うのだが、彼女の言葉も作品も全く微塵に打ち砕くことなど考えていないものだった。それは塊であり、確かな量感を持ち存在をアピールするものだ。アーティストが何気に使う言葉に私は度々驚く。世界が違うと、言葉は全く違う意味を持つ。
彼女の作品は全体に湿度があるように感じた。和紙に描かれた女の顔は平面のようで、ちょうど歌麿版画にある女の腕のように、何の線も色もない部分に湿度があり、よくよく見れば、白さの下に青い静脈や血の色までも見えてきそうな気がした。木っ端で作った作品にも人の皮膚のような湿り気が感じられた。
普通、パーティーのための道具や椅子がしまわれているメインギャラリーわきの倉庫に広がっているのがナカムラタツヤ氏の作品だ。彼の作品はずいぶん昔から見てきている。彼なりに、大いに語りたい変遷はあると思うが、私は一途に突き詰めているアーティストの一人だと認識している。だから、新しい作品を見る時も、「…それから、どうなったの」と思い、あえて視野狭く作品と向き合う。メインのステージから外れる倉庫部分を展示スペースにするあたり、私の「視野狭く」という鑑賞の姿勢は間違ってないのではと思う。今回もまさに突き詰め途中の作品で、彼自ら「作品をジーッと眺めるのが好き」と語っていたが、作品のヒントの発見も制作も、その後の作品の変容までも、ジーッと見続けなければならない、結構、骨の折れる、でも魅力的な道中、その只中に氏は立っている。
建物の外壁に入った罅(ひび)に注目し、その罅を写し、そこからさらに拡大、変容させて、あるいは、変容を見守る作業を彼はこの日、「トレース」と表現した。なるほど。この、追いかける、見続ける作品は、長い時間を経て、色になり、匂いになり、どんどん不穏にもなりそうだが、どこかで光を得るのだろうか。見続けたい。
重松希氏の作品はメインギャラリー西側の窓際あたりに広がっている。トレーシングペーパーにクレヨンでうわーっと描いた、波打つ草の葉のような絵画が「製鐵所の風景」?どういう意味だろうかと怪しんだが、自身クレヨンのように立って始めた彼女の話では、製鐵所の周りを囲んでいる森の風景らしい。それならば分かる。草の葉に褐色の枯れ色が案外勢いよく混じる様子も、まるで近くの製鉄所に反応している地の鉄色のようで、生き生きと見えてきた。彼女はここ、かつて八幡製鉄所で栄えた鉄の町で育った人であり、鉄に対する思い入れは相当のものらしい。ちょうど「世界は鉄でできている」というコピーがテレビなどで流れているが、重松氏もかなりの部分「鉄でできている」。これからなんにでも変身していけそうなまだやわらかい鉄。魚の絵や、鉄製の小さなモニュメントが数点あったが、何より「製鐵所の風景」が彼女を力強く物語っていた。
メインギャラリー南側には鈴木淳氏の作品。「fART(おなら)」はすごく楽しい噴火だ。くりくりとした目のあるおしりからモクモクと飛び出すおなら。気体を表現する線がきれいだが、作者はその形に昨今のきな臭い世界事情、紛争地の爆弾なども暗示しているらしい。同じ線でもベッド上の布地の皺の描写では、何か生体の存在が感じられるのはさすがだと思う。ただ、私は「On the Bed」という表題に気づくまでは、キャベツの絵かと思った。畑に鎮座する大きなキャベツは夜の暗闇の中で「明日はどんな悪童を生んでやろうか」と葉っぱ同志で密談をしているのかと思った。かなりの枚数を費やした木のシルエットの「Just One Tree」は、それぞれに文句を言っている。根を張って動けない木は文句たらたらなのかもしれない。
アルミニウム板を使った立体は狩野信喜氏の作品。あるべきところにプロペラがあり、滑車が備わっているという確かさ。トークも聞きたかったが、欠席だった。(編註3)
展示のスペース的にも色どりの点でも目立っていたのが服部夏子氏の作品群だ。昔のお手玉のように綿を詰めた布袋を素材に、スクエアや円形を飾り、また小さな子供の靴を飾っている。ニューヨークでは苦労したと言う彼女。しかし、彼女の声はよく響き、たとえ蹴られ傷ついても、自分が信じた道を歩んでいくという信念も厳しいニューヨークで得たと分かる。量感と肉感、華やかさ、愛らしさと鬱屈が膨れ上がっている美しさが印象的だ。
河村陽介氏の「ASTRO BOY」は納得できる作品だった。鉄腕アトムのぬいぐるみが白いブリーフを履いている。ふざけているのではない、きっとより分かりやすく存在しようとしているのだ。鉄腕アトムには白がよく似合う、それも肉体に近い白。ブリーフが出てくるのは必然かと思われる。勝手な解釈だが。
安田尚平氏はしっかりトークを聞かせてくれた。彼の板ガラスの作品は以前、見たことがある。この日のトークでは映画『スティング』でのポール・ニューマンの話が出た。私は残念ながらこの映画を見ていないが、ポールなら着衣のままの入浴もサマになるだろう。今回の彼の作品は浴室に展示されている。シャワー文化の欧米では浴室の意味が少し私達とは違うのではないかと思うことがある。浴槽のへりに置いたガラスの灰皿にタバコという彼の作品も少し欧米よりか。タバコ一つで生活感がうわっと押し寄せた昭和と違い、令和の空気に置かれたタバコには、露骨なリアルさはない。しかし、そこに新しい生活感が静かに誕生している。
さて、1週間後、operation tableで今度は村田峰紀氏によるパフォーマンスが行われた。手術台の上に置いた仏和辞典を、彼はボールペンでひたすら引っ掻きまくる。興奮が声帯に乗り移り、うなり声をあげる、薄い辞書の紙を引っ掻く、いや、辞書をボールペンで掘る。彼の発する声に応じて手術台に下げたランプは灯ったり消えたり。照明を落とした室内は、彼の声と明滅する明かり、そして激しく引っ掻くペンと紙の戦う音、見守る人々の熱気に包まれた。
その中で何とも楽し気にピッコ、ピッコと動いていたのが、若いお母さんにだっこされた赤ちゃんのふっくらしたあんよ2本。だんだん僧侶の声明のようにも思えてきた彼のうなり声や、室内の異様な興奮も、生まれて数か月の赤ちゃんにはちっとも不思議なものではないらしい。ちらちら彼の方へも視線を投げながら泣きもせず、赤ちゃんはすごくご機嫌だった。もしかしたら、羊水の中でこんな音を聞いたことがあるのかもしれない。
いつの間にか村田氏自身も手術台に上り、しまいには立ち上がってパフォーマンスは終わった。手術台の下にはこんもりと千切れた辞書の紙の山が出来上がっていた。
(ライター)
(編註1)絵具で描かれた植物線描も認められるので、田中奈津子さんに確認したところ、「下地と上描きがはっきりとわかれているわけではないので、染色と描画の多重奏を楽しんでもらえればいいと思っている」との回答をいただきました。
(編註2)(編註3) 初日のトークに参加できなかったアーティストからはヴィデオ・メッセージをいただき、トーク参加のアーティストの記録と同様、ホームページでご覧いただけます。
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以下はさわらびガーデンモール八幡一番街 1F休憩スペース(JR八幡駅前)の会場風景です。
「NAGABー長崎からのアール・ブリュット」⇒ こちらに移動しました。
昨年、QMAC企画から刊行された『アーサー・ダントを読む』に続き、QMAC企画第2弾となった黒岩恭介著『コンセプチュアル・アートの三人』を発行しました。
2023年11月29日で終了した「やはたアートフォレスト 2023~パレットの樹~関連企画 遠賀川神話の芸術祭2023~石炭と鉄/山本作兵衛✕青木野枝」展のために、上野朱さんから作兵衛翁を詠った「作兵衛升歌」「栓友-作兵衛・タツノの場合」の2篇とその解説、また落合朋子さん(北九州市立美術館学芸員)から展評を、そして青木野枝さんから、急遽開催が決まった展覧会への思いを綴ったエッセイを寄せていただきました。
第36回、第37回のセミナーをご案内します。
第36回QMACセミナー
宮本初音「ART BASE 88から送る福岡アート事情」
日時:2024年1月28日(日)17:00~
場所:Operation Table
参加料:1,000円(ドリンクあり)
宮本初音さんは先日1月8日にArtist Cafe Fukuokaで開催されたトークイベント「まちとアートプロジェクトの関係性」に参加、ミュージアムシティ天神の準備段階から10年間の展開を中心とした福岡アート事情を報告されました。今回はその続編ともいえる紺屋ビルでのART BASE 88での活動、六本松のArt House 88 移転開設以後の活動を主に、福岡アジア美術館のA.I.R.にコーディネーターとして関わっていることについてもお話を伺います。
トーク終了後もtea or wine+food などで初音さんを囲んでおしゃべりを続けます。
第37回QMACセミナー
山本聖子『白、シロ、黒、赤、そして緑-産業近代化の果てに辿り着いた不自由な身体について』
2024年2月9日(金)ー2月12日(月・祝)11:00~18:00 入場無料
アーティスト・トーク 2月11日(日) 14:00~15:30 トークのみ参加料1,000円
公益財団法人北九州市活性化協議会1000人の夢基金助成
山本聖子は2023年福岡アジア美術館アーティスト・イン・レジデンスに参加し、製鉄産業の現場や老朽化した51C団地などをリサーチ、映像インスタレーション「白色の嘘、滲む赤」を発表しました。それは画一化された近代的住宅環境で育った山本の原風景とつながるものでもありました。このセミナーでは、その記録映像を上映するとともにリサーチの過程で得た記録資料や制作したドローイングを展示し、レジデンスの成果を交えた今後の方向を探るものとなります。
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幼少時代から育ったニュータウンという安心安全な環境は、私の身体を漂白するように無機質なものにし、身体が本来持つ赤さを忘れてしまったように思います。それは個人的な感覚だけでなく明治以降の産業近代化の歴史と地続きではないかと考え、制作をしています。私にとって「白・シロ・黒・赤」はこの世界を表す重要なメタファーです。さらに「緑」も最近になって少しずつ入るようになりました。色を通じて身体と社会の関係について考えます。(山本聖子)
第35回QMACセミナーのお知らせ
第35回QMACセミナー
松野真知トーク「ドクペルーの映像作品制作に参加して」
福岡アジア美術館の「アーティスト・イン・レジデンス事業」として、来福したペルーの映像ユニット・ドクペルー(ホセ・バラドさん、ヒメナ・モーラさん)が制作した「緑よ、私の愛する緑」は、美術家、松野真知さんの実家がうきは市で営む松野牧場の日常を記録したドキュメンタリーです。今回のQMACセミナーでは、ドクペルー映像制作に参加した松野の話を聴きます。またその貴重な映像作品を3日間上映し、その機会に酪農業に携わりながら美術制作を行う松野の近作も展示されます。ドクペルー映像制作に参加することで作られたものをはじめ、今夏の線状降水帯によって起きた牧場の出来事についてのインスタレーションとなります。また松野がOperation Tableでの展覧会「とらんしっとー世界通り抜け」(2012)と「漂着」(2015)に参加した際に行ったパフォーマンスの映像「Milk to Butter」「Transit of Milk」「窓/乳」もご覧いただきます。
2023年12月1日(金)・2日(土)
12:00~, 14:00~, 16:00~「緑よ、私の愛する緑」上映(25分) 入場無料
2023年12月3日(日)
14:00~. 「緑よ、私の愛する緑」上映(25分) 入場無料
14:40~16:00 松野真知トーク[無料]
トーク終了後drink&sweets timeあります。(参加料;1,000円)
3日間とも展示会場は11:00~18:00オープン
会場;Operation Table
805-0027 北九州市八幡東区東鉄町8-18
https://www.operation-table.com
tel;090-7384-8169 email; info@operation-table.com
公益財団法人北九州市活性化協議会1000人の夢基金助成
■QMAC BUT-BRUT& ART BOOK FAIRのお知らせ
2023年9月16日(土)ー10月15日(日)
金土日 11:00-18:00 オープン
月〜木は予約制(tel;090-7384-8169 email; info@operation-table.com)
Operation Tableでは、次回ご案内する10月のQMACセミナー開催日までのひと月、スキマの展覧会とイベント「 QMAC BUT-BRUT&ART BOOK FAIR」を開催します。
QMAC BUT-BRUT(ブッ飛びブリュット)はQMACコレクションからの主に小さな作品を集めた32作家による77点の展示です。ART BRUTは、「正規の美術教育を受けていない人による芸術」「既存の美術潮流に影響されない表現」などと説明され、また障害者の芸術作品を紹介する名称とされることも多いです。今回のQMAC BUT-BRUTはそういったART BRUTの定義を超えてQMACがART BRUT(生の芸術)と見立てた、既成概念にとらわれずブッ飛び感にあふれる作品群を紹介します。
またギャラリー内はART BOOK FAIRの会場ともなっています。美術史の本や展覧会カタログ、雑誌などがたいへんオトクな価格で並んでいます。冷やかしもOK どうぞご来場ください。
出品作家:青木野枝、牛島智子、内野貴信、オーギカナエ、金森重樹、木村真由美、熊谷晃太、今恵美子、佐々木愛、白川智子、白川昌生、祐成勝枝、祐成政徳、鈴木淳、高木耕一郎、田中奈津子、田中伸枝、友清ちさと、中島真里、中野真典、難波瑞穂、花田智子、原三保子、藤岡祐機、本田明菜、曲梶智恵美、三津木晶、 南椌椌、村田峰紀、 山品聡美、山福朱実、和田千秋 32名77点
■QMACセミナー第34回
福地英臣『神のみぞ知る、マンガと絵画のシンギュラー・ポイント。』
God Only Knows the Singularity Point of Cartoons and Paintings
2023年10月22日(日) 13:00-14:30
参加料;1,000円(トーク終了後 drink&sweets timeあります)
美術を語る論壇において、漫画と絵画との表層の接点について長く指摘されてきたが、具体的に提示される機会は非常に乏しい。今回のセミナーでは、漫画の王様として知られる石ノ森章太郎先生のヒーロー漫画と美術史における未来派の取り組みとを比較検討をする。現代美術家でもあり漫画研究家でもある福地による特異な視点からの考察が絶妙なトークイベント。
■34th QMACセミナー開催記念特別展示
福地英臣+峰松宏徳
『買う前に悩むな!買ってから悩め!!』
Don't worry before you buy! Buy it andthen worry about it!!
2023年10月20日(金)-22日(日) 11:00~18:00 入場無料
朝日新聞文化財団助成事業
アニメや漫画などのポップカルチャーは国内外問わず圧倒的に支持を受け、美術の界隈でも「キャラアート(キャラクターアート)」と称される作品らが、昨今の感性を反映させるアイコンとして機能している。QMACセミナーと同時開催となる本企画では、ポップカルチャーのビジュアルから触発され作品を中心に、絵画のあり方を多様に模索すると同時に、オリジナルやコピーといった表現そのものを取り巻く普遍的な問題についても言及する。
桑山忠明(1932-2023)さんの訃報が届きましたので、お知らせします。8月13日(金)にニューヨークで家族に看取られながらお亡くなりになりました。後日偲ぶ会を計画しているそうです。ご冥福をお祈りします。
桑山忠明追悼展のお知らせ
会場:Marlborough Galley, 545 West 25th Street, New York, NY10001
会期:2023年11月9日 ー 2024年1月12日
初日は午後5時にオープン
8月27日終了の「林檎と蜜柑の数え方」の会場写真と出品作家2名+真武の各エッセイを掲載しました。
33rd QMACセミナー「寺山修司と高松次郎の68/72」真武真喜子(インデペンデント・キュレーター/Operation Table)をご案内します。
2019年の第30回以来、コロナ禍のため中断していましたQMACセミナーを再開いたします。
第31回目となる再開第1弾は、QMACセミナー第0回から17回までに4回ほど「アーサー・ダントを読む」という連続講義をしていただいた黒岩恭介さんにお願いしました。
これに続いて次週は、関西を拠点にアートライターとして活動する藤田千彩さんにおいでいただきます。詳細はこちらをクリック。
※終了した展覧会については、トップ・メニューの【exhibition/・past】にまとめています。
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写真家、山本糾さんの「ミシンと蝙蝠傘」です。「ミシンと蝙蝠傘」は2017年Operation Tableで開催された山本糾さんの展覧会タイトルであり、その中心となった出品作でした。印画紙にプリントされたモノクロ写真を屋外に設置する方法をずっと検討して2年が経ったのですが、このたび彫刻家、古賀義浩さんの製作したガラスフレームに入り、設置も古賀さんにやっていただきました。カラフルな素材や筆跡も残る壁画の中に、モノクロームの硬質な写真作品が加わり、外壁ギャラリーも一層バラエティに富んだものになりました。みなさま、通りすがりに、また展覧会やイベントにおいでの機会に、ぜひご覧ください。
山本糾「ミシンと蝙蝠傘」(右図)が仲間入りしたOperation Table外壁右中段
2018年11月23日、Operation Table外壁に新しい作品が加わりました。古賀義浩さんの石板レリーフです。いつもは水平線や山の稜線を思わせる抽象的な1本の線が走っている古賀さんの石板レリーフ、ここでは他の壁作品と同じく、手術台+蝙蝠傘+ミシンをテーマにしているので、手術台から浮き上がったミシンから青い糸の刺繍が縫いだされているような蝙蝠傘をかたどった線、曲線をつなぐために、きちんと並んでいる石板も不連続多方向につながっています。お近くまでいらっしゃる方はぜひお立ち寄りご覧になってください。
11月23日(金)に壁の作品がひとつ新たに設置されます。古賀義浩さんの石板レリーフです。ただ今絶賛制作中なので、まだどんなものになるのか???ですけど、乞うご期待。すでにある壁の作品たちと同じく、手術台とミシン+蝙蝠傘がテーマです。古賀さんが以前から制作発表してきた石板レリーフのタイプの作品となります。公開設置と記念トークをご案内します。
2018年11月23日(金・祝)
13:00 公開設置
14:00 記念トーク 古賀義浩
16:00 レセプション
場所 Operation Table
参加費 500円(レセプションは+1,000円)
古賀義浩さんは2016年に開催された「行雲流水 青木野枝+古賀義浩」@Operation Tableの展覧会アーティストです。
http://operation-table.com/koun.html